小石の眼から見た景色 あらかた50主婦のあったこと録

その辺に転がっている小石のあれこれ体験録です。

二男、野球部入らないってよ

二男がいつ頃からボールを投げ、おもちゃのバットを振り回し始めたか、はっきりした記憶がない。

運動が今一つの長男の練習に付き合っているうちに、気が付くと5歳違いの二男の方がメキメキと腕を上げていた。

 

活発で負けず嫌いな二男は、小学校低学年から地域の野球チームに入り、いつもワンコのように目をキラキラさせながら白球を追っていた。

ひときわ身体が小さかったけれど、内野の守備では誰にも負けたくないと、家でも自主練を重ねて、庭で黙々と素振りをしていた。

「頑張れ」よりも、「ちょっと休め」と声をかけなければならないくらい、野球に夢中だった。

小学生の間は特に、球児の母は、それはもう何かと大変だったけれど、頑張っている彼の姿にいつも励まされた。

一緒に汗をかき、共に悔し涙を流し、共に喜んだ。

そんな日が続くと思っていたし、やがて憧れの甲子園を目指す高校球児と、高校球児の母になるのだと思っていた。

 

中学の野球部を引退した頃、二男が「もう野球はやらないと思う」と言ったのだけど、高校生になって、部活見学に行ったら「やっぱり野球部入る」と言うと思っていた。

高校生になった二男は、野球ではなく、初体験の運動部に入部した。

 

 野球は好きだと言う。今でも突然「野球してぇ~」と言い出したりする。

でも、全てを犠牲にして部活にかけることには、どうしても抵抗があるのだと言っていた。

そんな考えは甘いのだ。全力で打ち込む一生懸命な球児は素晴らしいのだ。

だからこそ、全力でなければならないと真面目に思い描いているからこそ、自分の「野球が好きな気持ち」は、「そこまでの熱い思いではない」と気付いたのだ。

おまけに、坊主も、無理やり大量の昼食を食べさせられるのも嫌だと言う。

 

誰かのために、親のために部活しなくてもいい。

新しい何かにチャレンジしたいなら、思いっきりやってみたらいい。

笑顔でその選択を受け入れ、応援している。

 

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でも、心の中で、二男が野球を続けなかったのは私のせいでもあると思っている。

この地域は、中学生から、部活ではなく硬式野球チームに入る子どもが多い。

二男も、硬式野球のチームに憧れていた。

二男は身体の成長が遅く、他の子と同じように練習すると、骨の成長に影響するとドクターストップがかかったこともあった。

軟式よりも固く重い硬式野球、指導者にも不安があり、身体を壊す恐れがある。

 加えて、毎週末の遠征。それだけなら夫が頑張ってくれても、他の保護者に頭を下げても、それだけではない日々の支援が私には無理だと思った。

他の子どもたちは日々バッティングセンターに通い、少し調子が悪ければ通院。車でも1時間かかる良いスポーツドクターに通い、マッサージに通う。

平日でも、遠くのグランドで遅くまで練習することも度々。送迎も必要になる。

運転できない身では、もう応援できないと思った。 

 

 

私は、中学の頃、急遽そろえることになった袴を購入できず、最後の試合に出られなかった。

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 連盟の通達した「袴を揃えるという措置」に文句を言っていた、あの時の母の思考が少しわかる。

自分のせいかもしれないという後ろめたさ。

不甲斐ない自分を認めたくない気持ち。

プライドの高い人だったから、余計に辛かったのだろう。

そして私は、袴を買えないうえに試合に出られず、加えて理不尽に母に怒りをぶつけられるという踏んだり蹴ったり状態だった。

 

あの時の私はどうしてほしかったかな?母にどんな態度をとってほしかっただろうか?と考えた。

当時、家にお金がなかったのは仕方ない。

「お母さんが身体が弱くてごめんね」なんて泣かれても辛い。

「あなたには申し訳ないけど、うちは買えない。」

ただそれだけで、多分当時の私は納得して、一人こっそり泣いて、そして立ち直っただろう。

 

私の視力にハンデがあること、車の運転ができないこと、二男の身体的な成長が遅いことは致し方ない。

「こんな私が母親でごめんね」なんて泣いたところで、二男は困るだろう。

私が少し罪の意識が軽くなるだけで、許す以外選択肢を持たない子どもに、余計なものを背負わせてしまう。

 

「あなたの身体のことを考えると、中学で硬式は早いと思う。

そして、申し訳ないけれど、お母さんは車の運転ができないから、小学生までは何とか頑張れたけど、中学の硬式野球は、うちはフォローしてあげられない。」

中学に入学する前、私は二男に淡々と告げた。

二男は「わかってる」と言っていた。

本当は、きっと何度も悔し涙を流しただろう。

 

 

地方大会も始まり、高校球児がとりわけキラキラ輝いて見える季節がやってくる。

いつもと違って、密かにわずかに胸を痛めながら、日本の片隅から球児たちへ熱いエールを送っている。

 

ほんさき