就業初日、病棟の主任から「3か月で1人前になってください」と言われた。
初日の衝撃
まだ、認知症が「痴呆」と呼ばれていた頃の精神科の「認知症病棟」。
重い扉の鍵を開けると、奥にさらにもう一つ鍵付きの重い扉。
扉を開けると、異様なほど広く明るく天井の高いホールが広がる。
約60人のうち数人がこちらを向くけれど、ある人はウロウロ歩き、ある人は席で独り言を大声で話し、ある人は床をハイハイで移動している。
右側の畳スペースから「殺してくれ~殺してくれ~」と何度も叫び声がする。皆その声には無反応だ。
なかなかに衝撃的な目の前の状況に、「きっとやれる。頑張ろう!」という微かな自信は、あっさり吹っ飛んだ。
体力的にも、精神的にもハードな面がある仕事だったので、就業希望者は少なく続かない人が多い。
だから冒頭の主任の言葉になる。一刻も早く1人前になってもらわないと困るのだ。
「どうせ3日で辞めるだろう。」
私の面接に立ち会った病院の上層部は、そう言っていたらしい。
「前職が公務員の大卒の、介護は全くの素人の20代。どうせすぐに根を上げるだろう。」と。
「そんなことを私にわざわざ言ってくる『あなた』も、そう思ってたっぽいけどね。」
なんてことを思いつつ、「意地でも辞めるもんか!」と踏ん張っていたら、それなりに中堅の部類になっていた。
初日の衝撃の光景は、日々相変わらず繰り返されるうちに、すっかり慣れた。
霊感のある(自称)スタッフ
中堅の割には20代。その年齢層のスタッフが圧倒的に少ないこともあり、若いスタッフからの相談を受けることも増えた。
ある時、介護職のリーダーさん(若いけれども正社員)がほとほと困っていた。
「最近入ったパートのKさんが、『見える』って言うんです。」
Kさんが言うには、霊感が強いので、夜勤の時、廊下にOさん(少し前に亡くなった患者さん)がいるのが「見えた」らしい。
「『見えてしまって仕事が辛い。夜勤から外して、昼間だけのシフトにして!』って言うんですよ。
でも、それ嘘ですよね!夜勤したくないだけだと思うんですよ!見える訳ないですよね!ほんさきさん、どう思います!?」
「う~ん。Oさんは、おっとりしたおばあちゃんだったから、怖いことしないと思うし、見えても大丈夫だと思うんだよね~。」
「いや、ほんさきさん。そこじゃないです!!」
大切なのは「本当か嘘か」ではなく
でもさ、私はそういうの全く信じていないけどさ、「絶対見えない」とも証明できないじゃん。
Kさんの言う事が「本当か嘘か」なんて、いくら考えたって、いくら話し合ったってわからない。だから、そこは問題じゃないんだと思うんだよな。
困るところは、「夜勤必須」の条件で来てもらったのに、「どのくらいの期間、頻度かわからない」理由で「夜勤できない」ところ。
それから、確かめようがないことを口にして、いたずらに他のスタッフを不安にさせてしまうところ。
「あれ」が見えても見えなくても、仕事なのだからちゃんとやってもらわないと困る。
こういった場所は「あれ」が見える率は高いと考えられるから、辛くて働けないなら、職場として選んではダメなのであって、
他のスタッフにカバーしてもらえばいいという考え方は間違っていると思う。
Kさんは、最初から「日勤だけ」の職場を探すべきだと思う。
リーダーさんは、「本当か嘘か」は置いておいて、Kさんと話をしていた。「 Oさんは多分、見えても怖いことしないおっとりした人でしたよ。」も加えて。
そして、Kさんは、結局それまで通りの夜勤ありの勤務シフトに入り、ご家族の転勤で辞めるまで、大事な仲間となった。
世間には色んな人がいる。もちろん私も「色んな」の一人。
助け合ってカバーし合えるのは、仲間になれるのは、お互いに相手が「責任もって仕事してる」と信頼できるから。
どんな職場でも、そんな仲間になれるよう、まずは自分が信頼してもらえるような仕事をしなきゃなと思っている。
ほんさき
↓ にほんブログ村に参加しています。
★こんな記事も書いています★