映画や小説、ドラマなどを見ていて
「作者の意図とは違う視点で見ているな。」
と、感じることが多くなりました。年齢を重ねて。
私はどうしても自分に近い人に感情移入してしまいがち。
けれど50代のおばちゃんの日々はドラマティックからは遠く、主役にはなりにくい。
結果、ふとした場面で主人公よりむしろその親や同僚、ちょい役の近所のおばちゃんに共感してしまうことがあるのです。
映画「閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー」では、どちらかと言えばヒール役の「妹」に共感してしまう場面があって、複雑な気持ちになったのでした。
※以下、若干のネタバレを含みますので、ご注意ください※
映画「閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー」リアルさと違和感と
綾野剛さんが好きで、出演されている映画を動画配信サービスでぼちぼち見ています。
テーマの重さが予想されて躊躇していた映画「閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー」(2019年11月公開)に先日チャレンジ。
やはり、メンタルが元気な時に見た方がいいですね、これは。
【ストーリー】
長野県のとある精神科病院。それぞれの過去を背負った患者たちがいる。
母親や嫁を殺めた罪で死刑となりながら、死刑執行が失敗し生き永らえた梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)。
サラリーマンだったが幻聴が聴こえ暴れ出すようになり、妹夫婦から疎んじられているチュウさん(綾野剛)。
不登校が原因で通院してくる女子高生、由紀(小松菜奈)。
彼らは家族や世間から遠ざけられても、明るく生きようとしていた。
そんな日常を一変させる殺人事件が院内で起こった。(引用:東映 閉鎖病棟―それぞれの朝―|東映[映画])
原作は、帚木蓬生『閉鎖病棟』。
映画の宣伝のワンカットの、儚げな表情や愁いを帯びた薄い色の瞳の綾野さんが綺麗だったので、もちろん彼目当てで見始めたのですが、
笑福亭鶴瓶さんも、綾野剛さんも、演技が恐ろしいほどでした。
「綾野さん、実は、本当に幻聴が聞こえてるんじゃないの?」
と思いましたもん。
一旦落ち着いて隔離室から出てきた時の綾野さんの涙が、演技とは思えなかったですし、
それを迎える鶴瓶さんがたまらなく温かくて、辛いような嬉しいような、感情がぐちゃぐちゃになりました。
原作を執筆された帚木さんは精神科医でもあるそうなので、患者さんや家族、職員、病棟の雰囲気など、描写はリアルなのだと思います。
私も随分前に精神科の病院に勤務していたことがあります。
病棟の独特の雰囲気、食堂の様子、渡り廊下のトタン、お楽しみ会の空気、
お茶の入ったヤカンに至るまで、やけにリアルだなと感じる場面が多くありました。
ただ、若干の違和感も否めなかったです。正直。
院内も、外出も、そんなに自由に過ごせているものかな?と感じたり、
その自由度の高さゆえに起きた、院内での殺人事件(&その前に起こる胸糞悪い事件)。
ちょっと現実味に欠けるような印象も受けました。
(現在の病院の実態を私が知らないだけかもしれません。)
妹の立場で見てしまう場面
サラリーマンだったけれど、幻聴が聞こえるようになったチュウさん(綾野さん)、
現在は症状が落ち着き、退院も視野に入れられる状態です。
チュウさんの家族は、年老いた母親と家庭を持つ妹。
妹夫婦がチュウさんの入院に関して金銭的にも援助しているように見えます。
しかし、その妹夫婦が面会に来た時、普段優し気なチュウさんが、何だか偉そうな態度に見える!
「独居の母親に認知症の症状が出始めている」
「家を処分して、施設に入居させようと思う」と話す妹夫婦につっかかるチュウさん。
「自分が退院して母親を看る」とか言い出す。
綾野剛さん目当てで見始めたのに、チュウさん基本的に好きなのに、ここは無理!
もう完全に妹目線になってしまって内心毒づきまくり。
「何言ってんだこのク〇兄貴!」
「親をできるだけ家で過ごさせたい?自分で看る?どうやって?仕事は?」
「自分の状態わかってんの!今度あんたが具合悪くなったら、二人ともを何とかしなきゃならなくなるのはあたしよ!」
そんな毒づいている(私が)中、師長さんからは追い打ちが「ご家族の理解と支援が・・(ニュアンス)」。
入院前、チュウさんが幻聴のために夜近所で大暴れしてしまう場面も思い出されます。
(正直「怖い」と思ってしまう演技なんですよ・・・)
今に至るまで、妹さん大変だっただろうな。
暴れた後はご近所に謝って回っただろうし、夫の親族になんて言われてるだろう。
警察とか入院手続きとか、親の面倒や兄の面会・・・
※原作では妹さん、親の面倒見ないとか、面会こないとか、財産狙ってるとか、
もっとヒール役なのかもしれません。
精神疾患とは別の理由で縁を切りたい兄がいる身としては、多分作者が訴えたいテーマとは違う所にひっかかり、
なかなかにイライラしながら見る羽目になりました。
入院患者Iさんの妹さん
プリプリしながら思い出したのは、以前勤務していた精神科の認知症病棟(当時は「老人性痴呆病棟」)のIさんとその妹さん方のこと。
すらりとした80代の男性Iさんは、入院歴60年超え。
もともと精神科に入院されていたけれど、年齢を重ね認知症病棟で過ごすことになったのでした。
認知症の症状はあまりなく、そのため周囲を見下すような態度はありましたが、
職員と談笑される様子は「普通のおじいちゃん」。
当時の病棟では、ご家族の面会は二極化していました。
「定期的(又は頻繁)に通われる」か
「全く姿を見せない」か。
独身のIさんの所へは、妹さんがお二人、月に1回来られていました。
差し入れのお菓子を食べ談笑されるIさんは、いつもとても嬉しそうです。
ある時、家族対応係の私は、お盆の外泊・外出について妹さんに相談をもちかけました。
お二人とも協力的だし、きっといいお返事をいただけると思っていたら、思いがけず「ごめんなさい」とキッパリお断りされたのでした。
私たちは、兄のために結婚もできず、さんざん苦労してきました。
「お盆くらい外出させてあげたい」という気持ちより、苦労させられたという気持ちが勝ってしまいます。
もう身内は兄と自分たちだけだからと思って面会には来ていますが、それ以上はできません。
Iさんは、若い頃に刃傷沙汰を起こし、刑に服している最中に精神疾患が現れ入院となった方でした。
妹さん方はお二人とも当時70代後半、今ご存命ならば100歳に近い年齢。
現在とはまた別の、私たちには想像もできないご苦労が多々おありだったのだと改めて思ったのでした。
差し入れのお菓子が少なかったと拗ねているIさんを、ちょっと小突きたい気分(しませんけど)。
病気は本人が一番辛く、Iさんの妹さんたちのご苦労の本当の原因は、周囲の偏見なのでしょうけれど。
映画は重くもあり希望もあり
さて、映画の最終的な感想は、重くもあり希望もあり。
患者さん方の日常、ささやかに明るく生きようとされている姿、
寂しさや募る不安など、ギリギリのバランスで描かれているように感じました。
自分と近い年代の女性が一人ぼっちで海を眺めている姿に、ちょっと感情移入してしまって寂しさに胸が痛むことも。
そして、小松菜奈さん演じる女子高生、由紀に降りかかるアレコレが、もう辛過ぎる。
ひたすら胸糞悪いというか、ぶっ飛ばしたいというか・・・。
しかし、終盤の、彼女が夜明けを迎えるシーンが力強くて美しくて、希望を感じたのでした。
これまたおにぎりを「食べる」シーンに胸を打たれるのは、私の傾向なのかしら?
そうそう、チュウさんのお母さん、認知症ではなかったというふうに見えました。
ん?と言うことは、妹夫婦はちょっとオーバーに言って家を追い出そうとしてたのか??悪役だったのか??
妹の気持ちになって、肩持つ気持ちになっちゃってたけれど。
そう言えば、Iさんの妹さんお二人は、柔和な雰囲気で面会に来られていたのでした。
「これが正解」と言いたいのではなく、人それぞれの気持ちの整理の仕方があるのでしょう。
誰かの常識や正解を押し付けられるのではなく、自分が納得できる選択をしたいものだわと思いつつ、
縁を切るに切れない身内を考えただけで、とても整理できそうにないんだが・・
とも思っているところ。
ほんさき
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